2013年8月14日水曜日

労働搾取でないクラウドソーシング1

 クラウドソーシングについての議論でしばしば取り上げられるのが、安い単価でワーカーに仕事を発注することで、労働搾取しているのではないかという話です。

 クラウドソーシングの衝撃 (NextPublishing) でも取り上げましたが、確かに一部の仕事では、これまでに比べ圧倒的に安いコストで仕事を依頼できるようになることがあります。

 例えば、単純なデータエントリーであれば、クラウドソーシングを通じてアジア圏の人材を活用するれば、時給数ドルで仕事をしてくれるワーカーはいくらでも見つかります。
これに対して、先進国の発注者が発展途上国のワーカーを搾取しているという議論もあります。しかしながら当然ワーカーとしては生活が成り立つ価格で受注している訳で、例え短期的に価格を下げて受注することがあるにせよ、長期的には生活のできる価格帯に落ち着くはずであり、ある意味グローバルで適正化されるとも言えます。

 逆にこういった単純作業で既存の人材活用チャネルを利用し、高コストのワーカーを活用し続けることは、企業の競争力を失っている可能があります。
例えば日本企業で、FAXを見て数値をExcelに入力するみたいな作業を、正社員にやらせてたりするとこれは恐ろしく競争優位を失っていることになります。

 このあたりの議論は、ちきりんさんの日記でも取り上げられているので、そちらも参照していただければと。

 さて、一方で、新たな就業機会を提供し、高い給与がもらえる市場もクラウドソーシングには存在しています。

 その一例として、米国kaggleというデータサイエンティストのクラウドソーシングプラットフォームがあります。

 データサイエンティストとは、組織においてデータ分析を行い組織の価値を上げる能力をもった人材(いまだ定義はあいまい)ですが、世界的に人材不足していることが良く言われています。
これまでの雇用方法ではなかなか見つけてくることが難しい人材です。kaggleはそういったデータサイエンティストを数多く惹き付け、彼らの能力をクラウドソーシングを通じて活用するプラットフォームです。

 例えば、企業が「会員の購買データから退会率を予測するモデルを作る」とか、「求人票から給与を予測するモデルを作る」といった課題の解決をkaggleに依頼します。kaggleはその課題に報奨金をかけ、プラットフォーム上で解決策を募集します。

 提示された解決策の結果(どれくらい予測があたっているか等)は、コンペティション期間中公表され、データサイエンティストは互いに結果を見ながらよりよい解決法を探そうと競争し合います。最終的に最も良い結果を出したデータサイエンティストに賞金が払われる仕組みになっています。

 賞金は数百ドルから高額になると、数十万ドルにもなります。
 
 そういった中、これまでは恐らく報酬を得ることが難しいような人達もこのサイトで優勝し多額の報酬を得るようになっています。例えば、最近話題になっているのは、トロント大学 Geoffrey E. Hinton教授の研究室が、DNNという手法を活用して複数コンペティションで優勝していることがあります。この研究室がチームとなって参加したり、所属の学生が一人で参加して優勝するなどし、高額の報酬を得ています。

 こういった学生は、これまでは報酬をもらえていなかった、もしくは小額しかもらえなかった人々で、そういった人々が実力さえあれば十分に稼げる場が提供されています。

 また、企業で働きながらこのサイトに参加する人も多く、そういった中で優秀な人材は、高額の報酬を手にし、更にこのサイトでの評判をベースにコンサルティングビジネスを新たに立ち上げような人もいます。

 つづく。